森鴎外の妹である小金井 喜美子の「鴎外の思ひ出」に角打ちの場面が出てくる。
舞台は明治時代中期の東京千住。明治の中上流家庭に育った者から見た庶民の生活の一端が描かれている。
ここに描かれているのはまさに角打ちであるが、角打ちとは書かれていない。この頃の東京には角打ちという言葉がなかったことが推測される。
以下、「鴎外の思ひ出」より
その隣りは天麩羅屋(てんぷらや)でした。廻りは皆普通の店ですのに、そこだけが一軒目立っていました。註文(ちゅうもん)でもあるのか、盛(さかん)に揚げて、金網の上に順よく並べているのを遠くから見ていますと、そこへ一人の男が来て、いきなりそれを一つ撮(つま)んで、隣の酒屋へ入りました。店の人は心得たもので、伏せてあるコップをゆすぎ、一つの樽の飲口から小さな桝(ます)に酒を受けて、コップに移して渡します。立った男は天麩羅を一口食べては酒を一口飲み、見る間に明けて、さっさと出て行きます。私はただ呆れて見ていました」