山口瞳「遠見と背亀」のカブト(角打ちの異名)

北部九州の方言である「角打ち」は、ここでは「カブト」である。
(カブトといえば、ションベン横丁、いや、思い出横丁のウナギの串焼きを彷彿させるのだが、ここでは関係ない。)

以下、山口瞳「遠見と背亀」より

「ほんとに久しぶりだなあ」
「そうだな。景気はどうなの」
「駄目だね」
「昔とくらべて?」
「駄目だ。酒屋でカブトをやれば百も残らねぇ」
「カブト? カブトって何?」
「・・・・・・」
米造は立ちどまった。
「なんだよ」
「カブト知らねえの。酒屋の店先きで立飲みするだろう。あれがカブトだ」
「どうして、それがカブト?」
「しょうがねえなあ。店先きでかぶるようにひっかけるからカブトじゃねえか。それに、カブトって強いじゃねえか」
米造は大きな声で言って、両手をひろげ、兜をかぶった様子で道の真中で威張ってみせた。